自動車整備工場などの現場で溶接作業を行う際に用いられる「ガス溶接」。整備士にとって非常に重要な業務の一つです。しかし、ガス溶接は爆発や火災などの危険を伴うため、正しい知識や技術を得て資格を取得しなければ作業を行うことはできません。
今回は、ガス溶接の作業手順や注意点、必要な資格について詳しく解説します。自動車整備士を目指している方や、既に整備士でステップアップしたいという方は資格取得を目指してみてはいかがでしょうか。
ガス溶接とは
ガス溶接とは可燃性ガスを使用した溶接方法の一つです。
溶接とは、2つ以上の材料に熱と圧力を加え、材料を一体化させる接合技術のことをいいます。この接合に至る材料の状態により、「融接」・「圧接」・「ろう接」の3つに分類されます。ガス溶接は3つの分類の中の融接にあたります。
それでは、ガス溶接の基本原理や仕組みについて解説していきます。
ガス溶接
ガス溶接は、可燃性ガスと酸素が結び付いて燃焼する際に発生する熱を利用して、金属など材料の溶接を行います。このとき使用される可燃性ガスは、アセチレン、水素、LPガス、メタン、石炭ガス、都市ガスが挙げられます。
溶接を行う際は、可燃性ガスと酸素で発生した熱を材料の接合部に当てて溶融させた後、固定して冷却させると材料同士が結合するという仕組みです。
反対に、同じ原理で金属を切断する方法を「ガス溶断」といいます。
ガス溶接とアーク溶接の違い
ガス溶接と並んで代表的なのが「アーク溶接」という溶接方法です。二つの大きな違いとして、ガス溶接はガスを利用して溶接を行うのに対し、アーク溶接はアーク放電という電流を利用して溶接を行います。
ガス溶接はアーク溶接よりも火花が散りにくく接合部が見やすいため、ミスが起こりにくいことがメリットです。ガス溶接は溶接温度が低いため、薄い材料や溶けやすい材料の溶接に適しています。一方で、厚い材料の溶接や時間をかけずに作業を行いたい場合は、高温の熱を発生させるアーク溶接を用いた方が効率的です。
また、ガス溶接は不要な範囲まで加熱してしまい、ひずみが発生しやすいため、局所的な溶接にはアーク溶接の方が向いています。
ガス溶接とアーク溶接は、接合する材料や範囲によってどちらの溶接方法を用いるかを使い分けると良いでしょう。
ガス溶接の手順と流れ
ここからは、ガス溶接の手順や注意点をご紹介します。ガス溶接で使用する可燃性ガスは、取り扱いや手順を誤るとケガや事故につながる危険性があるため、作業手順を十分に理解しておきましょう。
ガス溶接装置の準備
ガス溶接に必要な装置は、「可燃性ガスボンベ」・「酸素ボンベ」・「圧力調整器」・「ホース・ガス溶接トーチ」・「専用ライター」です。
- 各装置の作業前点検を行う
- 圧力調整器でガスの残量を確認する
- ガス圧調整バルブを基準通り設定し、ガス漏れがないことを確認する
- トーチへの点火前にバルブをわずかに開き、ガスの噴出を確認する
※ガスボンベは爆発などの恐れを避けるために取り扱いに注意しなければなりません。
保管する際は40度以下の室温で保管し、周辺に高熱を発する機器などを置かないようにしましょう。
また、ガスボンベを横にしたり転がしたりすると自然発火や爆発する危険性があるため、必ず立てた状態で使用してください。
ガス溶接作業の準備
- 溶接用保護具や遮光メガネを装着する
- ガス溶接トーチのバルブをわずかに開き、専用ライターで点火する
- 酸素ボンベのバルブを開いて火の大きさを標準炎に調整する
- 試し加熱を行いながら適した火炎に調整する
ガス溶接作業
- 溶接したい材料をセットする
- トーチへの点火後、接合部の両端を溶融して固定する
- 溶接する
消火
- 酸素ボンベのバルブを閉める
- ガスボンベのバルブを閉める
※先にガスボンベのバルブを閉めると酸素による燃焼で爆発事故につながる危険性があるため、この順番を必ず覚えておいてください。
消火作業まで気を抜かずに注意しましょう。
ガス溶接の資格の種類
ガス溶接を行うために必要な資格として、「ガス溶接技能者」と「ガス溶接作業主任者」があります。可燃性ガスと酸素を用いた溶接業務は、爆発や火災などの危険を伴う作業として労働安全衛生法施行令第20条第10号に規定されているため、資格を取得しなければ作業を行うことができません。それでは、それぞれ資格の概要や取得の流れをご紹介します。
ガス溶接技能者
ガス溶接技能者とは、可燃性ガスと酸素を用いた溶接業務を行う技能者のことをいいます。労働安全衛生法に基づくガス溶接技能講習を修了した後、試験に合格すると資格を取得することができます。受講資格は満18歳以上です。
・ガス溶接技能者の資格取得の流れと講習内容
ガス溶接技能講習は、2日間にわたって学科講習8時間・実技講習5時間の計13時間の講習が行われます。講習内容は以下の通りです。
【学科】
- ガス溶接等の業務のために使用する設備の構造及び取扱いの方法に関する知識
- ガス溶接等の業務のために使用する可燃性ガス及び酸素に関する知識
- 関係法令
【実技】
- ガス溶接等の業務のために使用する設備の取扱い
ガス溶接作業主任者
ガス溶接作業主任者とは、ガス溶接業務を行う際に現場の指揮をする責任者ことをいいます。ガス溶接作業主任者の資格を取得するには試験に合格した後に、都道府県労働局長から免許を交付してもらう必要があります。
ガス溶接作業主任者の試験内容
ガス溶接作業主任者の試験内容は学科のみです。受験資格はないので誰でも受けることができます。ただ、3・4については受験を免除される場合があるため事前に確認しておきましょう。
【試験内容】
- ガス溶接等の業務に関する知識
- 関係法令
- アセチレン溶接装置及びガス集合溶接装置に関する知識
- アセチレンその他可燃性ガス、カーバイド及び酸素に関する知識
ガス溶接作業主任者の免許交付要件
ガス溶接作業主任者の試験に合格した後に免許を受けることで資格が与えられますが、免許を交付してもらう際は以下で紹介する要件のいずれかを満たさなければなりません。
【免許交付要件】
- ガス溶接技能講習を修了した後、3年以上ガス溶接等の実務経験を有する者
- 大学又は高専において溶接に関する学科を専攻して卒業した者
- 大学又は高専において、工学又は化学に関する学科を専攻して卒業した後、1年以上ガス溶接等の実務経験を有する者
- 塑性加工科、構造物鉄工科又は配管科の職種に係る職業訓練指導員免許を受けた者
- 普通課程の普通職業訓練(金属加工系溶接科)、養成訓練(溶接科)を修了した後、2年以上ガス溶接等の業務に従事した経験を有する者
- 鉄工、建築板金、工場板金又は配管の1級又は2級の技能検定に合格した者で、その後1年以上ガス溶接等の実務経験を有する者
- 旧保安技術職員国家試験規則による溶接係員試験に合格した後、1年以上ガス溶接等の実務経験を有する者
- 専修訓練課程の普通職業訓練(溶接科)、専修訓練課程の養成訓練(溶接科)を修了した後、3年以上ガス溶接等の実務経験を有する者
- 養成訓練(金属成形科)を修了した者
- 長期課程の指導員訓練を修了した後、1年以上ガス溶接等の実務経験を有する者
- 防衛大学校を卒業した後、1年以上ガス溶接等の実務経験を有する者
参考:
厚労省 労働安全衛生法
厚労省 労働安全衛生法関係の免許について
おわりに
ガス溶接は自動車整備士にとって、材料同士の溶接や切断を行う場面で役立つ重要な作業です。しかし、扱い方によっては事故を引き起こす危険性があるため、仕組みや作業手順を理解し、細心の注意を払わなければなりません。
ガス溶接に関する正しい知識を得て、自身のキャリアのステップアップにつなげましょう。