自動車の整備士として働いている方の中には、キャリアアップとして自動車検査員を目指す方が多くいます。車検検査をおこなうことのできる自動車検査員は、「みなし公務員」といわれているほど大きな責任の伴う職業です。しかし整備士と何が違うのか、資格の取得方法などが分からないという方も多いでしょう。
そこで本記事では、自動車検査員とはどのような職業なのか、仕事内容や資格の取得条件、取得までの流れを解説します。整備士としてさらなるキャリアを築きたい方、車検検査に興味のある方はぜひ参考にしてください。
自動車検査員とは
「整備士」には馴染みがあっても、自動車検査員という職業を知らなかったという方もいるでしょう。ここでは、自動車検査員とはどんな職業なのかをご紹介します。
自動車検査員とは
街中にある整備工場には、「指定工場」「認証工場」の2種類があります。どちらも自動車の分解整備がおこなえることには変わりないのですが、大きく異なるのは車検検査がおこなえるか否かです。
車検検査をおこなえる指定工場は「民間車検場」ともいわれており、陸運局まで車を持ち込まなくても車検が完了する利便性が高い施設となっています。
この指定工場で車検検査をおこなっているのが、「自動車検査員」の資格を取得している従業員です。自動車検査員の資格取得者にのみ車検検査が許されているので、整備工場では需要の高い人材といえるでしょう。
「みなし公務員」について
自動車検査員は「みなし公務員」ともいわれています。その理由は、自動車検査員の負う責任の重さです。
基本的に車検の合否を判断する役割は国が担っています。しかし利便性や社会的ニーズを考え、公務員でなくても自動車検査員の資格を取得していれば車検の合否判定をおこなえるようになっているのです。
公務員でなくても、おこなう業務や責任の重さは公務員と変わりありません。そのため、業務の妨害をされれば公務執行妨害を適用することができたり、公務員のように守秘義務が課されたりしています。
このことからも、自動車検査員がいかに重要度の高い職業であるかがうかがい知れるでしょう。
仕事内容
ここからは、自動車検査員の具体的な仕事内容をご紹介します。
業務内容
自動車検査員の主な業務は、以下の5つに分けられます。それぞれの仕事内容を詳しく見ていきましょう。
- 完成検査
整備士が整備し終えた自動車が、保安基準に適合しているかをチェックする作業。車検の合否の最終的な判断をくだします。 - 検査業務の監督・指導
自動車検査員としてキャリアを重ねると、新人の自動車検査員を育成することも業務に含まれます。また、自動車のオーナーに対して検査結果を説明し、安全走行を促すことも業務の一つです。 - 検査書類の作成・管理
車検の結果を書類にまとめて保管・管理するのも、自動車検査員の仕事です。書類は自動車のオーナーに対しての説明にも使われるので、分かりやすくまとめる力が求められます。 - 検査設備の管理
車検に使用する設備の管理も自動車検査員の管轄です。定期的に点検し、常に正確な検査がおこなえる状態を維持することも大切な役割です。 - 最新情報の把握・反映
車検の検査基準は、法令改正などによって変わることがあります。そのような場合にすぐに対応できるよう、自動車検査員は最新情報を把握できるようにしておくことが求められます。
自動車検査員が活躍する場所
自動車検査員が主に活躍する場所は、整備工場です。特に「民間車検場」といわれている「指定工場」には一人以上配置しなければならないと定められています。
もちろんそれ以外の整備工場でも活躍することはできますが、「車検の完成検査をおこなえる」という自動車検査員の特徴を活かせるのは指定工場といえるでしょう。
整備士との違い
整備工場などで重宝される自動車検査員ですが、「整備士とほとんど同じなのでは」というイメージを抱いている方も多いでしょう。しかし、整備士と自動車検査員にはある大きな違いが一つあります。
それは、「整備士は車検検査をおこなえない」ということです。整備士は自動車の整備全般をおこなえるので、車検を合格させるための点検・整備はできますが、車検検査は許されていません。つまり自動車検査員は、整備された自動車に不備が無いか、基準に適しているかなどの最終判断をおこなう役割を担っているのです。
整備士は自動車の安全な走行を守る責任ある職業ですが、自動車検査員はさらに重い責任を負う職業であるといえます。
自動車検査員の資格取得について
自動車検査員の資格を取得するためには、1級または2級自動車整備士の資格保有が必須条件です。
1級・2級自動車整備士の資格取得のためには養成施設に通うか、整備士として一定期間以上の実務経験が必要となります。
1級または2級自動車整備士の資格を取得後には、「整備主任者」として1年以上の実務経験こなし、さらにその後、検査員教習の受講が必要となります。その検査員教習にも受講条件が定められているので、1級または2級自動車整備士の取得後の詳細は次の章で説明します。
資格取得までの流れ
ここでは、自動車検査員を資格取得までの流れを解説します。
なお、この章では、すでに1級または2級自動車整備士の資格を取得したことを前提として説明していきます。
自動車検査員教習の受講資格
自動車検査員の資格を取得するためには、まず「自動車検査員教習」の受講が必須です。その教習を受講するためには、以下の3つの条件を満たしていることが求められています。
- 教習開始日の前日までに、整備主任者として、1年以上の実務経験があること(1級自動車整備士の場合は6ヶ月以上)
- 直近の整備主任者研修を受講していること
- 指定自動車整備事業の指定を受けている工場で勤務していること(指定を受けようとしている工場でも可)
上記の3つの条件を満たした人だけが、受講申し込みをおこなえます。
受講から資格取得までの流れ
自動車検査員教習の申し込み、受講を終えてからは、以下のステップで資格取得が可能になります。
- 自動車検査員教習申し込み・受講
- 自動車検査員資格試験
- 自動車検査員資格合格
- 地方運輸局に申請
自動車検査員資格試験に合格しても、地方運輸局に申請しなければ自動車検査員として勤務することができません。また、資格取得後も定期的に研修を受けて資格を更新し続けなければなりません。資格自体は失効しませんが、自動車検査員としての勤務はできなくなるので、忘れずに研修を受けましょう。
自動車検査員試験について
自動車の事故や故障などの危険なリスクの大きさにも影響を与える自動車検査員は、大きな責任が伴う職業です。そのため、自動車検査員試験の難易度はかなり高いとイメージする方も多いでしょう。
ここでは、合格率や国家試験のレベルについてご紹介します。
合格率
自動車検査員試験の例年の合格率は、公式では発表されていないので正確な数値は分からないのが実情です。しかし一般的には、教習試験を実施した都道府県によっても異なりますが、おおむね50〜70%といわれていますが、年によってはそれ以下となる場合もあり、受験地やタイミングによってかなりばらつきがあるようです。
国家試験の中でのレベル
合格率からも分かるように、自動車検査員は責任の重い資格ではありますが、国家試験の中ではかなり取得しやすい資格の一つです。教習を実施する施設によっても異なりますが、基本的に教習・試験通して無料で実施しているのもチャレンジのハードルを下げている要因の一つでしょう。
試験問題は教習実施施設によって異なりますが、以下の2科目に分かれており、どちらも教習でおこなった内容が出題されます。各都道府県の自動車整備振興会のホームページから過去問が入手できることもあるので、確認してみましょう。
- 検査関係(整備問題・車両問題)
- 基礎法令・整備関係法令
自動車検査員は国家試験の中では取得しやすい資格ですが、試験の難易度とは別に一定期間以上の実務経験が必要なので、資格取得までに時間がかかるという点では難易度が高いといって良いでしょう。
おわりに
自動車検査員は、車検において最終的な合否の判断をくだす重要な役割を担う責任の重い職業です。その責任の重さ故に資格取得には複数の条件があり、主任としての実務経験など、長年のキャリアを必要とします。つまり自動車検査員の資格を取得したということは、自動車や法令に関する知見を証明するだけではなく、キャリアをも証明することにもなるのです。