自動車整備士の主な仕事の1つである分解整備ですが、この分解整備という名称が「特定整備」に変更となりました。名称の変更に伴い、認証工場にはいくつかの対応が必要になりましたので、本記事では従来の分解整備と特定整備の違いや、新たに認証が必要となった作業、認証工場になるためにとるべき対応について解説します。
すでに「特定整備制度」を盛り込んだ道路運送車両法は2020年4月から施行されているので、早めにチェックしておきましょう。
特定整備とは?
特定整備とは、正式には自動車特定整備制度といいます。特定整備は2019年(平成31年・令和元年)5月に交付、2020年(令和2年)4月1日に施行されました。従来の分解整備から範囲が拡大され、「電子制御装置整備(装置の作動に影響を及ぼす整備又は改造等)」と対象装置に「自動運行装置」が追加されたことが変更点です。そのため、元々の分解整備の内容が含まれますが、特定整備と分解整備はまったく異なります。
「分解整備」から「特定整備」になぜ名称が変わったのか、名称以外にどこが変わったのでしょう。制度変更の背景やタイミング、変更された内容についてご紹介します。 すでに制度自体は施行されていますが、以下で特定整備制度についての理解を深めましょう。
分解整備から変更された背景
特定整備制度施行の背景として、自動車技術の発展が挙げられます。これまで時代やニーズに合わせて日々進化していた自動車ですが、特に近年の発展は著しく「100年に1度の大変革期」と呼ばれているほどめざましい発展を遂げています。
その変革の大きな要となったのが、自動運転や衝突被害軽減ブレーキなどを実現した電子制御装置の拡大・発展です。安全走行に大きな影響を与える電子制御装置ですが、従来は自動車の走行の安全性を左右する装置の整備を指す「分解整備」に含まれていませんでした。認証を受けてなくても電子制御装置の整備が可能だった分解整備制度では、現代の車の安全性を確保するのは難しいため、法改正に踏み切られたという背景があります。
特定整備認証の種類3つ
特定整備認証には、以下の3つの種類があります。
- 分解整備のみを行う
- 電子制御装置整備のみを行う
- 分解整備と電子制御装置整備の両方を行う
「分解整備」とは、原動機の脱着、足回りの分解整備などを行う場合に必要な認証をいいます。「電子制御装置整備」とは、自動車の安全な走行に直結する、高度な技術を要する整備を行う場合に必要な認証を指します。主に、1.自動運行装置の取り外し、作動に影響を及ぼすおそれがある整備・改造、2.自動ブレーキやレーンキープ機能に用いられる前方をセンシングするためのカメラ等の取り外しや機能調整(コーディング作業や光軸調整など)、3.1と2に関するカメラやレーダー等が取り付けられているバンパ、グリル、窓ガラスの脱着が挙げられます。
特定整備における認証基準
特定整備制度により、作業場の改築や整備士の増員が必要であるか否かが気になる事業所も少なくないと思われます。ここでは、特定整備に関する変更点や受けられるサポートについてご紹介します。
電子制御装置整備をおこなう予定のある事業所においては、以下をチェックしておきましょう。
必要な作業場面積
特定整備に必要な作業場面積は、以下のとおりです。なお、ここでご紹介する作業場面積は、普通自動車の場合の認証基準となります。
電子制御装置点検整備作業場 | 間口 | 2.5m |
奥行き | 6m(屋内3m) | |
天井高さ | 対象とする自動車についてエーミング作業を実施するのに十分であること | |
床面は平滑であること | ||
車両置場 | 間口 | 3m以上 |
奥行き | 5.5m以上 |
必要な設備・道具
特定整備で新たに必要になる主な設備や道具は、以下になります。
- 水準器
- 整備用スキャンツール(性能および機能要件を規定)
ほかにも、点検・整備に係る機器や法令の情報や自動運転装置の技術情報を入手できる体制をとることが義務づけられています。
従業員に関する基準
基本的に、従業員に関しても分解整備で定められていた工員数や自動車整備士の最低条件と同じです。変更点としては整備主任者の資格要件が挙げられます。従来の整備主任者の要件に加え、講習の受講が必須になります。
また、分解整備と特定整備の両方をおこなう場合、「1級自動車整備士(1級二輪は除く)」 または 「1級二輪自動車整備士、もしくは、2級自動車整備士」であって、講習を受けた者のみが整備主任者として選任が可能になります。ただし、こちらも経過措置があります。詳しくは後述する「認証工場に必要な対応」の項をご覧ください。
運輸支局長等による講習
特定整備制度にいち早く対応するため、すぐにでも認証が欲しいと考えている事業所もあるでしょう。そこで、当面の間、運輸支局長等による講習を受講することで、整備主任者の要件を満たすことのできる対策が講じられています。
法令などを学ぶ「学科」とエーミング作業などを学ぶ「実習」の2項目の講習を受けたあと、筆記試験による試問を受けて合格することで、整備主任者として選任が可能になります。
なお、自動車検査員研修や整備主任者研修において、2020年(令和2年)度以降に行われるもので、かつ、学科講習の内容が含まれているものを受講すれば、学科講習を受講したものとして見なされます。また、実習講習においても、各自動車整備振興会やディーラーなどで行われるエーミング講習の受講をはじめ、過去に受講したエーミング講習であっても、実習講習を受講したものとして見なされます。
おわりに
自動運転や衝突被害軽減ブレーキなど、自動車の安全走行に重要となる電子制御装置整備の安全性を確保するため、法改正が行われて導入されたのが特定整備制度です。特定整備制度への移行については経過措置がとられているとはいえ、今後特定整備を行うためには新たな要件や認証を満たす必要があります。今回ご紹介した内容を参考に、できるだけ早く認証を得るよう対応を進めましょう。