2021年の義務化に向けて、自動ブレーキシステム搭載車や普及について、CMやニュースで耳にする機会が増えてきました。
しかし、自動ブレーキシステムの仕組みや、自動ブレーキ義務化の具体的な内容を詳細に理解している方は少ないのではないでしょうか。
ここでは、自動ブレーキとは何か、また、自動ブレーキ義務化が導入される背景や義務化の概要について詳しく解説します。
自動ブレーキ(AEBS)とは
自動ブレーキ「AEBS」とは「Advanced Emergency Braking System」の略であり、国土交通省が定めた条件を満たす規格の自動ブレーキを指します。
自動ブレーキは、車載されたセンサーによって障害物を検知した際に、ドライバーが適切な回避操作を行なわなかった場合、危険と判断して車の動きを自動制御するシステムです。
自動ブレーキがかかる仕組みには、段階があります。
最初に危険を察知した際には、まずコントロールパネルに危険を知らせる表示を出します。それに対してドライバーが何も対処しなかった場合、次に、警告音で知らせます。警告音を出してもなおドライバーが回避操作をしない場合に、自動でブレーキがかかるようになっているのです。
ドライバーがハンドル操作をしたりブレーキをかけたりした場合は、「人間が適切な操作をした」と認識し、自動ブレーキは作動しません。
自動ブレーキのセンサー
自動ブレーキは、センサーやカメラ、レーダーを使用して障害物と車との距離、障害物の場所を検知します。自動ブレーキの機能として大きなポイントとなるのは、センサーの機能性です。
センサーには、これから説明する3つのセンサーがありますが、各センサーの機能はそれぞれ異なります。各センサーは、それぞれの短所をカバーしながら安全性を向上させていることが特徴です。
自動ブレーキに搭載された3つのセンサー
1つ目は、暗い場所で障害物と車の距離を検知する赤外線レーザーセンサーです。
赤外線を使用して距離を測るセンサーですが、計測距離が長いと正確性が低くなるため、およそ20mまでが目安だといえます。
2つ目は、障害物を検知する光学カメラです。
光学カメラは、ステレオカメラと単眼カメラがあり、カメラを用いた画像検知によって障害物を認識し、検知したのが人なのか車なのか、障害物とどの程度の距離があるのかを判断して自動ブレーキ機能に役立てます。
3つ目は、電波の周波数を使って障害物を検知するミリ波レーダーです。
ミリ波レーダーは、電波を照射し、反射した周波数を活用して障害物との距離、速度を測定することから、高速で走っている際に役立つ機能だといえます。
自動ブレーキを操作するソフトウェアも重要
各センサー、カメラ、レーダーが高性能だったとしても、収集した情報を制御し自動ブレーキ機能に役立てるソフトフェアが機能していなければ、安全に運用できません。自動ブレーキが誤作動すれば追突といった大きな事故を起こす可能性があります。そのため、ソフトウェアの性能も重要だといえるでしょう。
自動ブレーキ義務化の概要
国土交通省は、車の自動ブレーキシステム(衝突被害軽減ブレーキ/AEBS)の国内基準、および義務化の内容について発表しました。ここでは、国土交通省の自動ブレーキ義務化の発表内容や義務化の開始時期・条件についてご紹介します。
国土交通省の発表
国土交通省は、「乗員+車両+積荷の重量合算値」で算出されるGVWに応じて2014年から段階的に自動ブレーキ装着の義務化が進められているトラックとバスに続き、乗用車についても義務化すると発表しました。国産車、輸入車ごとで、それぞれ条件と開始時期が異なります。
義務化の条件と開始時期
自動ブレーキ義務化の条件と開始時期は、国産車、輸入車、新型車、継続生産車で細かく異なります。
自動ブレーキ義務化が開始される時期は、以下のとおりです。
国産新型車:2021年11月以降
国産継続生産車:2025年12月以降、軽トラックは2027年9月以降
輸入新型車:2024年6月以降
輸入継続生産車:2026年6月以降
最も早く義務化されるのは国産新型車であり、2021年には自動ブレーキ搭載が義務化されます。国産継続生産車については乗用車と軽トラックで義務開始時期が2年異なることが特徴です。
自動ブレーキ義務化の背景・目的は?
自動ブレーキが義務化された背景として、事業用自動車の居眠り運転による重大事故の発生や、高齢者ドライバーによる事故が多発したことなどが挙げられます。
2012年4月に居眠り運転により発生した関越道高速バス事故を受けて、国土交通省は、高速バスに自動ブレーキシステム搭載の義務化を決定しました。2018年には、高速バスだけではなく一般の乗用車に関する自動ブレーキシステムの性能が統一され、自動ブレーキの義務化が進められています。
また、高齢化社会が進むなかでドライバーも高齢化し、高齢者ドライバーによるアクセルとブレーキの踏み間違えによる重大事故件数が大幅に増加しています。
それもまた、自動ブレーキ義務化の大きな背景となっています。
自動ブレーキが義務化されることで、居眠り運転や高齢者ドライバーによる事故を防ぎ、交通事故件数の減少が期待されています。
自動ブレーキがない車への後付けは可能?
自動ブレーキ非搭載の乗用車については、後付けで自動ブレーキを装備することはできません。
しかし、自動ブレーキの代わりとなるシステムの後付けは可能です。踏み間違いを予防するシステムや、警告音とランプで知らせるシステムなど、後付けできるシステムはいくつか存在します。
また、自動ブレーキ義務化にともない、現在、自動ブレーキがない車に乗っている方は、車を買い替えなければならないと心配されているかもしれません。自動ブレーキ義務化は、あくまでもこれから販売される車に自動ブレーキの義務が課せられる制度です。
2021年11月から自動ブレーキ義務化がスタートしますが、その時点で自動ブレーキのない車に乗っていたとしても、その車を買い替える必要性は必ずしもありません。
自動ブレーキに頼りすぎるのは禁物?
便利な自動ブレーキですが、現状の性能では万能であるとはいえません。そのため、自動ブレーキに頼りすぎるのは禁物です。国土交通省からも、自動ブレーキを過信しないよう注意喚起がされています。
例えば、歩行者の洋服の色や前方を走っている乗用車の色によっては、対象物を検知できず、自動ブレーキが作動せずに衝突するリスクがあります。
また、自動ブレーキは、歩行者や車などの急な飛び出しには対応できません。降雪や雨天時などの走行環境、降雪路や凍結路などの路面状況の違いによっても、自動ブレーキの作動精度が下がりますし、制動距離も変わってきます。
自動ブレーキ搭載車を販売しているメーカーでも複数のテストを実施してはいるものの、最新の自動ブレーキシステムで必ずしも事故を防げるものではない、ということを認識しておきましょう。
自動ブレーキを搭載した車の整備・車検について
自動ブレーキをはじめとした電子制御装置の発展と安全への重要性から、車の整備・車検においても制度が整えられつつあります。
自動ブレーキを搭載した車の整備・車検で重要となる、特定整備制度、OBD車検導入について確認しておきましょう。
特定整備制度について
2019年5月に公布された特定整備制度は2020年4月に施行され、分解整備の範囲が拡大され、従来からの分解整備に電子制御装置整備が追加されました。特定整備は、許可された業者のみ整備作業を行なえます。
OBD車検導入について
OBDとは「On-Board Diagnostics」の頭文字を取ったもので、車載式故障診断装置のことをいいます。OBD車検とはその名のとおり、車載式故障診断装置を使った検査のことを指します。2021年以降の新型乗用車、バス、トラックがOBD車検の対象となる予定です。
OBD検査は、国が指定するスキャンツールと車種の故障コード情報を交換して行なわれます。合否判定についての情報はOBDスキャンツールに記録せずに、独立行政法人自動車技術総合機構のサーバーへアクセスして自動で合否判定を行なうことが特徴です。
おわりに
自動ブレーキシステムは、衝突事故を予防するために重要な機能として注目を集めています。しかし、シチュエーションによっては、機能しなかったり不要な場面で機能したりすることもあります。
自動ブレーキシステムが搭載されている乗用車であれば、確実に事故を起こさないというわけではありません。車を運転する際には、自動ブレーキシステムはあくまでも補助機能としてとらえ、自動ブレーキを過信することなく、常に安全運転を意識することが大切です。