板金塗装は、自動車のボディの修理・修復に特化した仕事です。自動車は事故による損傷だけでなく、年月の経過とともに塗装が剥がれたり劣化したりするものです。このように、傷ついたりへこんだりした自動車を修理して塗装することで、元通りのきれいな状態に修復します。
本記事では、板金塗装とは具体的にどのような作業を行うのか、仕事をする上で取得しておきたいおすすめの資格や未経験から目指す方法をご紹介します。
板金塗装とは?
板金塗装は、「板金」と「塗装」の2つの工程に分かれており、板金を行う人のことを「板金工」と呼ぶこともあります。具体的には、傷ついたりへこんだりした自動車を修理する作業のことを指します。
板金作業は、事故などによって損傷を受けた自動車の変形した部分を、元の形状に戻す作業を行います。その他、ボディのパーツ交換やゆがんだフレームの修正、パネル交換、塗装作業のための脱着も板金作業に含まれます。
塗装作業は、板金作業で剥がしたり削ったりした部分に塗料を塗って元の状態にする作業を行います。元の色に近づけるよう調色しますが、熟練の職人でも100%同じ色にするのは難しいといわれる作業です。また、単に塗装するだけでなく、パテで下地を整えたり、でこぼこやゴミを除いたりするなど、複数の工程を合わせて塗装と呼ばれます。
自動車整備士との違い
自動車整備士は、自動車の修理や点検・メンテナンスを行います。壊れた自動車のパーツを分解し、故障の原因を見つけて修理したり、車検や定期点検で不具合がないかをチェックしたりします。板金塗装は自動車のボディにできた傷やへこみ、劣化などの修理・修復作業を行います。
どちらも自動車の悪い部分を元の良い状態に戻す作業であることは共通ですが、自動車整備士は自動車の内部についての修理を行うのに対して、板金塗装業は自動車の外装の修理を行うという点で異なります。
自動車板金の主な就職先
自動車板金の就職先としては、主に以下の3つの職場が挙げられます。
自動車板金工場
自動車板金工場は、自動車のボディの修理・修復を専門に扱っている工場です。傷やへこみ、劣化部分の板金塗装、部品交換などを行います。基本的に自動車板金は、板金塗装を専門に行なっている自動車板金工場に就職する人が多いです。
自動車整備工場
自動車整備工場は、自動車の整備、点検、修理を専門に扱っている工場です。一般的に、板金塗装に関する作業は自動車板金工場と提携している場合は多いですが、整備工場によっては板金塗装も担当していることがあります。自動車整備工場への就職を考えている場合は、自社工場で板金塗装を行っているかを確認しましょう。
カーディーラーや中古車販売店
カーディーラーや中古車販売店は、自動車の販売、点検整備、アフターサービスを行っている業者です。一般的に、板金塗装に関する作業は外部の提携工場へ委託するケースが多いですが、大手ディーラーなどでは修理や板金塗装も行っている場合があります。そのため、板金塗装の部門が設置されているカーディーラーや中古車販売店へ就職すれば、板金塗装に関わることが可能です。
板金塗装の仕事内容
板金塗装は自動車にひっかき傷や擦り傷、へこみができた時、色あせができた時などに必要になります。板金塗装の作業の大まかな流れは4つのステップに分けられます。
1. ボディのへこみを表面に引き出す
まず、自動車の傷の大きさや深さを確認し、ボディがへこんでいる箇所を表面に引き出す作業を行います。ハンマーなどの専用工具で裏から叩いたり、表面から引っ張ったりすることで自動車のボディのへこみを引き出します。
2. 塗装面を剥がしてパテを埋め込む
へこみの引き出し作業が終わったら、塗装面を剥がしてパテを埋め込みます。パテが乾燥したら研磨紙などで研磨して表面をなめらかにします。
3. 下地中塗り上塗りをする
パテを埋め込んだ部分に下地塗料を塗り、乾燥するまで待ちます。乾燥後、元の自動車の色と同じになるように確認しながら塗料を調色し、ボディに塗装していきます。塗装していることが分からないよう色を合わせてきれいに仕上げることが重要です。
4. 塗装が乾いたら、コンパウンドで磨きあげる
塗装が乾燥したら、ボディの表面に付いた傷を消すためにコンパウンドで仕上げ磨きを行います。
板金塗装の仕事をするのに資格は必要?
板金塗装の仕事をするのに資格は必要なのかについて、気になっている方は多いかと思います。板金塗装に関する資格を取得することで、どのようなメリットがあるのか理解しておきましょう。
資格を取得するメリット
板金塗装において取得しなければならない必須の資格はありません。ただし、自動車業界で働く上で自動車に関する深い知識を持っておくと、就職に有利となったり仕事の幅が広がったりとさまざまなメリットを得られます。板金塗装業を目指している方は関連する資格についてチェックしておくと良いでしょう。
就職・転職で有利にはたらくことがある
資格の取得は、就職や転職の際に有利となることがあります。基本的に、専門性の高い技術職である自動車工場やディーラーでは、有資格者を優先的に採用するケースも多いです。中には資格を保有していることを条件として提示しているところもあるでしょう。そのため、資格を取得することで選考の際に有利に進めることができ、就職先や転職先の選択の幅が広がります。
自身の技術力の証明になる
板金塗装は、高度な技術力と専門的な知識を求められる仕事です。単に自動車の見た目を元通りにするだけでなく、自動車の強度を考慮しながら作業を進めなければなりません。板金塗装の仕上がりは職人の経験と技術力で決まることから、深い知識や技術を習得する必要があります。板金塗装に関連する資格を取得することは、自身のスキルをアピールして技術者としての信頼性を高めることにつながります。
キャリアアップに役立つ
資格を取得することで専門性を証明することができ、キャリア形成の選択肢を広げることができます。資格の種類によっては、資格手当による給与アップや昇進に有利になることもあるでしょう。また、将来的に独立を考えている場合、業界や仕事に関連する資格を取得しておくと必ず役立ちます。
板金塗装の仕事におすすめの資格7選
板金塗装の仕事におすすめの資格は以下の7つです。各資格の概要や板金塗装業への活かし方をご紹介します。
- 自動車整備士資格
- 自動車車体整備士資格
- 塗装技能士資格
- 危険物取扱者(乙種第4種)
- ガス溶接技能士・アーク溶接技能士資格
- 有機溶剤作業主任者資格
- カラーコーディネーター
自動車整備士資格
自動車整備士は、自動車の点検・修理、メンテナンス、分解などの作業を行うことができる国家資格です。自動車整備士資格には1級・2級・3級と特殊整備士があり、特に板金塗装に役立つのは分解整備を行える2級自動車整備士以上の資格です。場合によっては板金塗装の際に分解整備を行うこともあるため、資格を取得しておくのがおすすめです。
自動車車体整備士資格
自動車車体整備士は特殊整備士の一つで、自動車のフレームやボディ部分など車体に関する知識や技能を証明する国家資格です。車体の整備・修理・点検を行うことができ、板金塗装を行う上で特に役立つ資格とされます。就職に有利となる可能性が高いため、板金塗装業を目指す人にとって取得するメリットは大きい資格でしょう。
塗装技能士資格
塗装技能士資格は、塗装に関する知識や技能を有することを認定する国家資格です。金属、木工、建築、噴霧、鋼橋の5種類に分かれており、その中で自動車の板金塗装で役立つのは「金属塗装技能士」です。自身の塗装技術の向上とともに、スキルを証明することでお客様からの安心感を得ることができるでしょう。
危険物取扱者(乙種第4種)
危険物取扱者は、消防法において6つに分類された危険物を取り扱う際に必要な資格です。危険物取扱者には丙種・乙種・甲種と3つの種類があり、その中でも乙種第4種はガソリンや軽油、重油、灯油などの危険物を取り扱えます。自動車業界で働く上で資格を取得しておくと、幅広い業務に活かせるでしょう。
ガス溶接技能士・アーク溶接技能士資格
板金業務では、金属の溶接・溶断・加熱の作業を行うことが多くありますが、これらの作業は溶接技能士の資格がないとできない作業となっています。板金業務を行う上で、ガス溶接技能士・アーク溶接技能士資格は有用性の高い資格です。
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ガス溶接とは?作業手順や注意点、必要な資格の種類について解説
有機溶剤作業主任者資格
有機溶剤作業主任者は、有機溶剤を取り扱う時に現場の指揮・監督を行う責任者です。有機溶剤は他の物質を溶かす性質を持つ有機化合物なので、取り扱いには注意しなければなりません。自動車の塗料にも有機溶剤が用いられているため、安全に作業を行うために必要な存在となります。
カラーコーディネーター
塗装作業では、自動車のボディに合わせて塗料を調色します。不自然にならないよう、微妙な色の違いを見極めなければなりません。カラーコーディネーターは色彩の知識が身に付くため、塗装作業で役立つ可能性があります。
板金塗装に向いている人は?
板金塗装には、以下のような人が向いています。
車が好きな人
自動車業界で働くうえで、車が好きというのは欠かせません。板金塗装では、自動車の構造について深く理解することができ、修復する達成感や色・デザインを施すワクワク感を味わうことができます。車が好きな人に非常に向いている仕事といえるでしょう。
向上心がある人
板金塗装の技術を習得し、一人前として作業できるようになるのに10年かかるといわれています。そのため、根気強く、日々コツコツと技術力や知識力を磨いていく向上心がある人に向いています。
手先が器用な人
板金塗装では小さな部品を取り扱います。また、細かな作業を行うことが多いため、手先が器用な人に向いています。
集中力がある人
板金塗装は細かな作業を行ったり、毎日同じ作業を繰り返したりすることが多い仕事です。長時間の作業となるため集中力を必要とし、黙々と作業に取り組める人に向いています。
体力がある人
板金塗装は、重い工具を使ったり力仕事となったりする作業があり、体力を求められる仕事です。長時間立ちっぱなしのときもあれば、しゃがんだ姿勢を維持するときもあるため、体力に自信のある人に向いています。
未経験でも板金塗装の仕事はできる?
板金塗装の仕事に就くために必須の資格はなく、未経験からでも目指すことが可能です。自動車業界の中では人手不足が深刻化している職種も多く、企業によっては技術者の育成や資格取得支援に注力しているところもあります。そのため、就職してから実務経験を積みながら、現場でスキルアップしていくことができます。未経験者を含め積極的に採用活動している企業もあるため、未経験から板金塗装の仕事に就きたい場合は「未経験者歓迎」と記載されている求人に応募するのがおすすめです。
まとめ
今回は、板金塗装の作業内容や資格について解説しました。未経験・無資格でも板金塗装の仕事に就くことは可能です。しかし、資格を取得しておくと、より深い知識と技術を学べて、今後のキャリアにおいてもプラスの要素となります。
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